ペットショップやホームセンター、ネット通販には様々な犬のおやつが溢れています。一昔前まで犬といえば番犬として外で飼い、犬のおやつと言えばゴツイ牛の骨でしたが、時代とともに飼い主の需要が細分化し、犬用と名のついた様々な商品が販売されるようになりました。
今、私たち消費者は多様化の恩恵を受ける代わりに、自らの知識や価値観で選択を迫られています。しかし店頭には圧倒される程の商品が並び、一体どれを選んだらいいのか容易には決められません。おやつコーナーを何回も行ったり来たり、商品を手に取っては見比べて悩むばかり。愛犬に良い物を与えたいという気持ちが強い飼い主さんほど悩む時間も長くなりがちです。最近では、これ食べる物?それとも遊ぶ物?という食べ物とおもちゃの境目さえ分かりにくい、紛らわしい商品も見られるようになりました。
愛犬の為に、少しでも良いものを選びたい!そんな飼い主さんの為に、愛犬にとって良くない物が何かを知る所から始めましょう。
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【犬の歯は人間より弱い??】
犬は木材でも骨でも噛み砕いてしまう、強靭な歯の持ち主だ!と思われている方も多いと思いますが、実は犬の歯は非常に弱くとても傷付きやすいものです。犬の歯の表面はエナメル質と呼ばれるもので覆われています。これは歯の構造のなかで最も硬く、物を食べた際に歯に傷がつかないように守る役割をしています。このエナメル質は人間にも同様に存在していますが、その厚さは犬の方がはるかに薄く、人間のエナメル質の約10分の1と言われています。この事から歯自体は私たち人間の方が強い物を持っていると言えます。ではなぜ多くの人が犬の歯が強いというイメージを持っているかと言うと、歯ではなく顎の力と誤認していると考えられます。確かに犬の顎は人間よりはるかに強靭な噛む力を持っていますが、顎の力と歯のエナメル質の厚さが全く伴っていないのです。
【硬い骨は本当に歯に良いのか】
人間の赤ちゃんには、歯が生え始める頃のむず痒さを解消する為、硬い物を噛ませて歯を丈夫にする歯固めという習慣があります。犬にも乳歯が生える際には不快感があり、それらを解消する為におもちゃを噛ませる事があります。
しかし、犬の場合は乳歯が生え揃った後も生涯、噛みたい欲求を持っています。成犬になっても、この噛みたい欲求を満たしてあげる必要があるのですが必要以上に硬いものを与えてしまうと犬の薄いエナメル質をはがす事になってしまいます。そもそも噛むタイプのおやつ、いわゆる“ボーン系おやつ”と言われるものは犬の歯固めをする為の道具ではありません。もちろん犬の顎を鍛える為(家庭犬ならアゴを鍛える必要もないですが…)でもありません。
噛むタイプのおやつには犬の噛みたい欲求を満たすとともに、もうひとつ、歯垢を拭うという効果があります。噛むことで、犬の歯に付着した歯垢を落とし歯石になるのを予防する事が出来ます。但し、歯垢を落とす為のおやつは硬ければ硬いほど良い、という訳ではありません。なぜなら歯垢は柔らかいうちであればガーゼなどでも簡単に拭い取れるからです。噛むタイプのおやつは歯垢を取る手助けになりますが、ここで重要なのはエナメル質をはぎ取るのではなく、柔らかい歯垢が取れればいいのです。それには、硬すぎるおやつは不必要であると言えます。
硬いボーン系おやつの定番と言えば『牛の骨』ですが、これらは必要以上に硬すぎる為犬のエナメル質をはがしてしまいます。一番硬いエナメル質がはがれると、その下の象牙質(歯の白い部分)までどんどんすり減って、最終的には歯髄と呼ばれる歯の神経の部分までもむき出しになります。顎の力が強い為、齧り付いて歯が折れてしまうといった例も少なくありません。このような事例は動物病院でも頻繁に見られ、硬すぎるおやつやおもちゃで歯がボロボロになってしまった犬がたくさんいます。飼い主さんは犬の歯を見る機会も少ないのであまり気付いていないようですが、診察の際にちょっと歯を見れば削れている事はすぐに分かります。これが硬すぎるおやつの弊害です。
また残念ながら、歯垢を取らないまま放置し続けて歯石になってしまった場合は、どんなに硬いおやつを噛ませても取る事は出来ませんので動物病院で歯の処置について相談してください。犬も永久歯が傷付いてしまった場合、再生する事は不可能なので人間と同じように一生ものの永久歯は大切にしなければなりません。ぜひ早めのご相談を!
【意外に危険な鶏の骨】
牛の骨は硬すぎるので与えてはいけない!とご紹介しましたが、それ以外にも危険な骨があります。それが鶏の骨です。鶏の骨は牛よりも柔らかく簡単に噛み砕けるのですが、折れた先端がとても鋭利になりやすいのです。特にさっと茹でただけ鶏を骨付きのまま犬に与えるのは非常に危険です。丸呑みする食性のある犬では、骨がそのまま喉に突き刺さることがあります。家庭の調理で骨まで食べられるようにするにはかなり長時間煮込み続けなければ難しいでしょう。その点、市販されている水煮缶で骨までスプーンでつぶせるほど柔らかく加工してあるものであれば喉に刺さる心配もなく安心です。手軽にカルシウムも摂取する事が出来ます。
【硬すぎるおやつの見分け方】
では最後に、冒頭から“硬すぎるもの”はダメ!と説明してきましたが、一体どの程度の硬さであれば犬に与えてもOKなのかという硬さの定義をご説明しておきます。
まず、人間の歯でも噛めない物は犬にとっても硬すぎるので、与える前に人間の歯でじっくり試し噛みしてみるといいでしょう…なんて、冗談ですが(気が狂ったと思われるのでやめておいて下さい)、硬いおやつを判定するにはキッチンバサミなどで切れるかどうかが目安となります。ハサミで簡単に切れればOKと覚えておきましょう。ハサミで切れないようなおやつは硬すぎるので犬には与えないようにしましょう。少し硬そうなおやつを与える際は事前に確認する事をお勧めいたします。普段与えているおやつが硬すぎないかどうか、ご家庭でも一度試してみて下さい。