猫は偏食、こだわり派

前回、犬の食性について『グループでモンスター狩りに行くオオカミ』とお話ししましたが、今日はそれとは対照的な猫の食べ方についてです。

猫の食性を表したドンピシャな言葉に『猫またぎ』があります。これは、猫が大好きな魚であっても、不味ければ食べずに通過してしまう。という意味の言葉ですが、まさしくコレが猫のワガママな性格と言われる所以です。猫を飼っている方はよくご存知かと思いますが好きなものしか食べない、食べ出してもすぐ残す、ごはんには見向きもしない、など犬とは全く違う特徴を持っています。これは猫またぎが意味するようにフードが“不味い”のかというと、実はそうとも限りません。美味しいけれど残す場合もあるのです。

私は現在、犬も猫も両方飼っているのですが2頭の食べ方の違いに、動物の食性とはこんなにまで違うのかと毎回感心します。同時にご飯をあげても、振り向けば、犬はもう完食!猫は1口食べてもういない!くらいです。ご飯を残すなんて、犬からしてみれば全くの意味不明でしょうね。でもお陰で猫が残したご飯を盗み喰いしているので猫の食性万歳といった所でしょうか。

犬と猫 ご先祖様は同じ?

太古の昔、犬と猫は同じ1頭の動物でした。『ミアキス』という名の小型肉食獣が共通のご先祖様です。ミアキスはタヌキと猫を合体させたような、今の犬や猫に通ずる風貌をしています。同じご先祖様なのにどうしてここまで真逆になってしまったのか。そこにはやはり食性と狩りが関係しています。具体的には狩りをする場所と獲物の違いです。同じ祖先のミアキスのうち、『ちょこちょこ小さい獲物ばっかり狙ってねーで、草原に行けばもっと大物がいるだろ!あいつら一狩り行こうぜ』という輩が後の犬に。『私たちは森で小物を狩って慎ましやかに暮らしていきますわ』という控えめさんが後の猫へとなっていきます。

そして、約1万5千年前に狩場を分けた2種がそれぞれ人間と暮らし始めた事でさらにアイデンティティが確立されます。

犬猫の家畜化(就職先)

人間と暮らすようになった犬は獲物を追う持久力や嗅覚を買われ、人間の狩りに同行する仕事に就きました。職場は広い草原、外回り営業です。一方猫は、持久力も嗅覚も犬より劣る為、収穫した作物を食い散らすネズミを狩る仕事に就きます。職場は室内の内勤です。ネズミの活動に合わせて夜の室内でもしっかりと働けるよう動体視力を発達させました。

ここで少し余談ですが、犬は人間と共に狩りに同行し、狩った獲物を分け与えられてきました。このような行為は、犬が人間をリーダーとして慕うきっかけになりました。犬の方が『しつけ』がしやすいと言われるのはこのためです。

逆に猫は内勤なので一人で黙々と狩りをしています。人間とコミュニケーションを取る必要もなければ、命令を聞く必要もありません。人間が何をやっていようと私には関係ない、だから私にも構わないでちょうだい。と互いに干渉せずに過ごしてきました。猫が『言う事を聞かない』のはこのためです。そんな猫と人間との微妙な距離感は現代でも縮まらないままのようです。

猫の食性

では本題の猫の食性を紐解いていきましょう。猫は基本的に小物(小動物)を狩って生きています。小さい獲物は敏感で群れで近づくとすぐに気付かれてしまう為、自分ひとりで狩りに行きます。これを『単独捕食者』と言います。狩りはいつも1対1のタイマン勝負です。ゲームでいうとストリートでファイトするアレに似た感じですね。1対1なので自分と同じレベルの奴を相手にするとうっかり負けてボコボコにされる可能性もあります。そこで、こいつなら楽勝だな、という弱いザコばかりを対戦相手にします。ゲームの設定をイージーモードにして絶対に勝てるようにするのです。そのちょろいザコキャラの代表がネズミですね。犬のように何日もかけて必死に狩りをしなくても、小腹がすいたらそこら辺にいるネズミをちょいと狩ればいいのです。即K・Oのちょろいファイトです。

しかし1回の狩りはちょろくても、さすがにネズミ1匹では足りないので1日に3~5回ほど繰り返し狩りを行います。このように少しの量で何回も食べる事を『少量頻回採食者』といいます。そのため猫には腹いっぱい食い溜めるという発想がありません。美味しいものでも今の小腹が満たされればそれ以上は食べません。

更に、猫は時間が経った酸化のにおいにとても敏感です。食べ残したものは酸化していく為、少しでも変なにおいがしたらもう食べません。『変なにおいがするものを食べるくらいなら、新しいネズミを狩りに行くから、いらないよ。』という訳です。同一種を頻回捕食する動物は獲物に変化があった場合(例えば、捕食されないように毒を持つようになったなど)すぐに気付かなければ自分の死に繋がります。その為これはワガママではなく、食へのこだわりを強く持っておかなければ生き残れなかった為です。

この事から猫の食事は回数を多くして1日に何回も与える方が、猫にとっては嬉しい食べ方なのです。そして一回で食べきれる量を少しずつ与える方が、残ったものを捨てずに済むので私たちのお財布にとっても嬉しい与え方です。

猫は猫舌なのか問題

最後に猫が猫舌かどうかという話をしてみましょう。これも『少量頻回採食者』という食性を知れば簡単に説明が出来ます。まず、猫がネズミを狩った場合はたいていすぐに食べます。狩りたてのほやほやの”温かい食餌”です。逆に狩ってから時間が経過した”冷めた食餌”には興味を示しません。これも、『冷めた不味いものを食べるくらいなら、ほかほかのネズミを狩りに行くからいらないよ。』です。そう!猫は“猫舌”どころか温かい食餌の方が断然好きなのです。

では犬はというと、大型動物をさんざん食い溜めした後、残ってしまった肉も勿体ないので捨てずにストックしておきます。次に狩りに失敗してお腹が空いた時に食べる為です。その頃には肉も冷えきっていますが犬は全く気にしません。犬よりも猫の方が、ずっと温かい食べ物を好んで食べているのに“猫舌”と呼ばれています。なんだかモヤモヤした話ですね。

ちなみに温かいものが好きと言っても、熱いものが好きとは違います。動物はグツグツと煮えたぎるチゲ鍋のような熱いものは食べられません。これは火を扱う人間特有の進化です。猫が好きなのはせいぜいぬるい程度で、BESTの温度は38℃くらい。面白い事にぴったりネズミの体温と同じです。

熱いものが食べられない事を“猫舌”と呼ぶより、熱いものを食べられる事を“人間舌”と呼ぶ方がしっくりきますね。

もし猫の食欲が落ちたなら、人肌程度に温めてみるといいでしょう。きっといつもよりも食いつきが良くなるはずです。でも、くれぐれも熱々にしすぎないように。猫は“人間舌”ではありませんので…。

【動物病院6Sコンサルタント】
動物病院6Sコンサルタントとは、5Sに動物病院の人材育成(スタッフ)を加えた造語です。
製造業界の管理ツールである5Sを動物看護師の知識と経験を活かし、動物業界に合う形に変換、セミナーなどで情報を提供する事で動物業界の更なる医療安全と効率化を図る為、日々コンサルティング活動を行っている。

【経歴
動物病院での実務経験や動物看護師養成学校での教員経験を経て、現在はフリーランス動物看護師、動物病院6Sコンサルタントとして独立。日本で唯一、動物病院の片付けを専門にコンサルティングを行う傍ら、動物病院の片付け方セミナーや動物栄養学関連のコラム等に携わっている。

動物病院の6Sとは、製造業界における整理収納や工具などを管理する技法(5S)に動物病院の人材育成(Staff)を加え、6Sとした造語である。企業や家庭の整理収納を応用して、動物病院特有の業務や管理と融合させる事で、より高い医療安全や業務の効率化が図れると考え、日々6Sの普及活動やコンサルティングを行っている。

【資格
・日本ペット栄養学会認定 ペット栄養管理士
・日本メディカルアロマテラピー協会認定 ペットメディカルアロマセラピスト
・動物看護師統一認定機構 認定動物看護師
・日本動物看護職協会認定 臨床動物栄養指導師 1級
・ペットフード協会認定 ペットフード販売士
・ハウスキーピング協会認定 整理収納アドバイザー2級
・ハウスキーピング協会認定 企業内整理収納マネージャー
・日本掃除能力検定協会 掃除能力検定 5級
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